賃貸住宅の取得に係る消費税還付終焉へ【全国賃貸住宅新聞】2020年01月27日 | オーナー
賃貸住宅の新築時や中古物件の購入時に活用されてきた「消費税還付」。いよいよ2020年の「税制改正」では還付ができない状況になってきた。税制改正によってどのように変わるのかを紹介する。
賃貸住宅取得に関する消費税還付申告法の変遷
2006年 | 賃貸住宅の消費税還付申告が増える |
自動販売機を設置し課税売上を作ることで課税事業者となり、消費税還付の条件を満たす (自動販売機スキーム) |
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2009年 | 税制改正により「自動販売機スキーム」が使えなくなる。 |
「自動販売機スキーム」は賃貸住宅を取得した年度の課税売上割合が3年後に5%以上減少し、かつ通算課税売上割合が50%以上変動していれば調整額を納付するというルールがあった。 だが、3年目を迎える前に免税事業者になって調整をすり抜けていたのが、3年後に調整が必要となり、禁じられる。 |
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2016年 |
課税売上を増やす方法として、「金」の地金取引に注目。購入と売却を繰り返すことで、課税売上を合法的に作る。 |
2020年 | 税制改正により、10月1日以降、賃貸住宅の「消費税還付」はできなくなる。 |
中古は引渡し期限9月末、建築請負契約は3月末
2019年12月に発表された「令和2年度税制改正大綱」には、「居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度等の適正化」という改正項目がある。この改正項目が意味するものは、まさに「賃貸住宅取得費に関する消費税還付申告の終わり」だ。
賃貸住宅の新築時や中古物件購入時に取得した費用の消費税は、これまで家主の要件が合えば還付を申告し、受けられた。
これまでも賃貸住宅取得費の消費税還付が注目されてから2度にわたって、規制が厳格化されてきた。だが、今回の改正では、「居住用賃貸建物」の「課税仕入れについては、仕入税額控除制度の適用を認めないこととする」と明記されており、この内容はすなわち消費税還付ができないことを示しているのだ。
改正は2020年10月1日以後に適用となる。新築の場合、2020年3月31日までに建築請負契約を締結していれば、10月1日以後に賃貸住宅の仕入れを行った場合でも改正は適用されない。
「土地を保有していないが、建築する意思があり、建物の消費税還付を受けたいと考えている人は3月31日までに土地の売買契約を交わし、その土地に建築するアパート・マンションの建築請負契約を締結する必要がある」と賃貸住宅の消費税還付の実績が多い田中会計事務所(東京都墨田区)の田中美光所長は指摘する。
一方、中古物件を購入し、消費税還付を受けたいと考える場合は、2020年9月30日までに物件の引き渡しを受けないと還付を受けることができない。「売買契約日をもって還付申請をし、高裁で否認された事案があるので要注意」(田中所長)
詳細は4月以降発表
そもそも賃貸住宅の家賃は非課税なのに、消費税が還付されるのはなぜか。
消費税とは、売上先から預かった消費税から、仕入れ先に支払った消費税を差し引いて納めるというのが大原則。そのため、預かった消費税よりも支払った消費税の方が多いときには払い過ぎた消費税は還付される。だが、賃貸住宅の建築費(購入代金)として支払った消費税は、駐車場や自動販売機などの消費税の課税売上と賃貸住宅の家賃収入や地代収入などの消費税の非課税売上の「課税売上割合」によって差し引くことができる金額が変わるため、売り上げの大半を建築(購入)した賃貸住宅の家賃収入が占める個人や法人は還付の対象にならないというのが課税当局の一般的な見解だ。
だが、これまでは合法的に消費税の還付を受ける方法があった。消費税還付を受ける場合は、次の手順を行う。(1)家主は物件の取得前に「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、消費税課税事業者になる。(2)建物の購入・完成月に消費税の非課税売上である家賃収入が発生しないように契約をし、一方消費税の課税売上を合法的に計上する。(3)消費税の確定申告書を提出して、おおよそ3カ月後に還付金が銀行口座に振り込まれる。(4)還付申告年を含めて3年間の課税売上割合の推移に注意し、「調整計算」に引っ掛からないように合法的に課税売上を計上し、還付金を没収されないようにする。
この「調整計算」の規定では「家賃収入を上回る課税売上」を作る必要があり、16年以降は金地金の売買で対応した還付申告も多かったのだ。
以上のように、消費税還付を受けることができたが、今回は賃貸住宅の取得費について、消費税還付を受けられなくなるという改正となった。
「まだ詳細が分からない部分があるため、今後については4月1日以降の発表待ちとなる」と田中所長は話す。